岐阜地方裁判所 昭和43年(ワ)474号 判決 1969年8月29日
主文
被告は、原告に対し、金七八万円およびこれに対する昭和四三年一〇月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、仮に執行することができるが被告において金四〇万円の担保を供するときは、仮執行を免れることができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言。
二、被告
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決ならびに担保を条件とする仮執行免脱の宣言。
第二、当事者の主張
一、請求原因
原告は、原告の訴外高間七夫に対する岐阜地方裁判所昭和四一年(ワ)第五二号事件の確定判決に基づく金七八万円の債権の強制執行として、右高間の被告に対する岐阜市日の出町一丁目一八番地所在軽量鉄骨造陸屋根四階建店舗の二、三、四階の部分の、昭和四一年一一月一日から昭和四二年一一月三〇日までの賃料一三ケ月分(一月金六万円)合計金七八万円について、岐阜地方裁判所に対し債権差押および転付命令を申請し(同裁判所昭和四三年(ル)第一九一号同(ヲ)第二〇二号)同裁判所は、昭和四三年八月一五日これを容れ、右差押および転付命令は同月一七日第三債務者たる被告に、同月三一日債務者たる右高間にそれぞれ送達された。
よつて原告は被告に対し右転付金金七八万円およびこれに対する弁済期の経過した後である昭和四三年一〇月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
請求原因事実はすべて認める。
三、抗弁
1(一) 被告は、昭和四一年一一月八日岐阜地方裁判所において右高間が原告より昭和三八年八月一日に賃借りした岐阜市日の出町一八番地の宅地の借地権が右高間の賃料不払いを理由に、昭和四一年一月三日解除され消滅した結果被告が、右高間より昭和四〇年一〇月一日賃借りしていた右土地上に所在する前記建物の二、三、四階部分から退去し右土地を明渡すべき旨の判決を受け(同庁昭和四一年(ワ)第五二号事件)右判決は、昭和四四年二月四日確定し被告に対する強制執行は、同年四月二二日に終了した。
(二) 右事実により、右高間の昭和四一年一月三日賃貸人としての賃借人たる被告に対する右建物二、三、四階部分を使用収益させるべき義務は、その責に帰すべからざる事由により履行不能となり民法第五三六条二項(危険負担)により翌四日以降の被告の賃料支払義務は消滅した。したがつて被告と右高間との間の賃貸借契約は同月三日に終了した。
2 仮りに右主張が認められないとしても、原告は、右高間との右土地の賃貸借契約を解除し、もつて被告の右建物の二、三、四階部分賃借権の存在の基礎を失わしめ、被告の差し入れた敷金、金二五〇万円を踏み倒し被告を右賃借部分から追い出しながら昭和四一年一月三日以降も賃料支払義務ありとして同年一月一日から翌四二年一一月三〇日までの賃料を請求するのは信義誠実義務、公平の原則に照らし無効である。
3 仮りに右主張が認められないとしても被告の賃料支払義務は右高間の右建物二、三、四階部分を使用収益させるべき義務と、同時履行の関係にあるから右高間において右義務を履行するまで被告は、賃料支払を拒絶するものである。
4 仮りに賃料支払義務があるとしても、抗弁1(ニ)記載の如く被告と右高間との間の本件賃貸借契約は、昭和四一年一月三日終了したのであるから次の抗弁を主張する。
(一)(1) 被告は右高間に対し昭和四〇年一〇月一日本件賃貸借契約締結と同時に敷金として金二五〇万円の金員を交付した。
(二) 被告は昭和四三年二月一七日に内容証明郵便により、右敷金返還請求権をもつて賃料債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をし右内容証明郵便は同月一九日右高間に到達した。右相殺の効力は、昭和四一年一月三日に遡つて発生するから被告の債務はすべて消滅したことになる。
(二)(1) 仮りに右4(一)の事実が認められないとしても被告は右高間より右4(一)記載の日時に、調理代四台大型ガスくど一式の造作を金二八万円で買受け、同日右金額の金員を支払い、また同月一三日ごろ右高間の承諾をえて東海装備株式会社に依頼して畳・襖等の造作を設備し同月一八、二四、二八日同会社に合計七〇万円の金員を支払つた。
(2) 被告は抗弁4(一)(2)の内容証明郵便をもつて右造作を時価をもつて買取るべき旨を請求し同時に右造作の時価合計金九八万円をもつて賃料債権と相殺する旨の意思表示をした。右相殺の効力は同様に昭和四一年一月三日に遡つて発生する。
(三)(1) 仮りに右事実が認められないとしても、右高間は高間観光ホテルを経営していたところそのころ倒産し右高間は無資力になつたが右建物の買取請求権を行使しない。
(2) そこで被告は抗弁4(一)記載敷金返還請求権を保全するため昭和四三年二月一七日内容証明郵便をもつて右高間に代位して原告に対し右建物を時価にて買取るべき旨を請求し右内容証明郵便はそのころ原告に到達した。
(3) したがつて原告は、被告に対して、右買取代金を支払う義務が発生したので昭和四三年一一月一日の本件口頭弁論期日において右買取代金債権をもつて原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。右相殺の効力は右抗弁4(一)、(二)と同様に昭和四一年一月三日に遡つて発生する。
四、抗弁に対する認否
抗弁1(一)の事実中被告が昭和四一年一一月八日岐阜地方裁判所において被告主張内容の判決を受け右判決が昭和四四年二月四日確定し、被告に対する強制執行が同年四月二二日終了したことは認める。
同24の各事実は否認する。
五、再抗弁
(抗弁3に対して)
被告は抗弁1(一)記載の判決宣告後も右建物の賃借部分を現実に使用していたのであり、右高間は賃貸人としての使用収益義務を果たしたものである。
六、再抗弁に対する認否
否認する。
第三、証拠(省略)